おうち薬膳 忘れな
自家栽培した薬草を取り入れた、美味しく身体にいい薬膳料理。チョロギ村の「健康長寿の村」づくり
黄金色のメタセコイア並木を抜けた先に、そびえ立つ赤煉瓦の建物。
R477からは宮川交差点を右折して東へ4km。
美しいメタセコイアの並木を通り抜けた先にある、赤レンガ壁の洋館。
まるで外国の大学のキャンパスに来たかのような錯覚を覚えます。
ここは「森のステーションかめおか」という、地域の魅力を発信する展示・体験施設です。匠ビレッジ、チョロギ村、鳥の巣ロッジ、カメロックスで構成されており、生涯学習、講座セミナー、イベントにも使われています。
今回はその中で、薬草庭園や薬膳レストラン「忘れな」を運営されている「NPO法人チョロギ村」を訪問しました。
薬草庭園は建物の周りを取り囲むように点在しており、認知症予防の可能性があるとされる「チョロギ」をはじめとする様々な薬草が栽培されています。
身近な草花の中に「薬草」があることを、子ども達に知ってほしい。
「薬草原(やくそうげん)」と名付けられた薬草庭園を案内してくださったのは、チョロギ村代表の森さん。
薬草原は身近な薬草や季節の花々と触れ合える場所です。
普段よく目にする草花の中に薬草があることを知り、興味を持った子ども達が将来「薬草の豆博士」になってほしいという願いがこめられています。
園内を見回して、まず目についたのは、鮮やかな赤い実。
「不老長寿の薬」として楊貴妃が毎日食べていたという、クコの実です。薬膳では体を温める素材として多用されています。
ピンクの可愛らしい花は、「コルチカム」。こちらは食用ではなく鑑賞用。
免疫力の向上につながるとされる「金時生姜」など、薬草原には様々な薬草が植えられている
セリ科の多年草でセロリに似た芳香がある、当帰(トウキ)。
乾燥させた根は、多くの漢方薬や生薬製剤に使われています。
日本の気候や環境に合わせて作られた純国産の生姜である金時生姜(キントキショウガ)。冷えを改善し、免疫力を向上させる効果があるというジンゲロールが、なんと通常の生姜の3倍も含まれています。
その貴重な金時生姜を事もなげに引き抜く、森さん。
「ええっ!いいんですか?そんな大切なものを…」
「大丈夫、大丈夫。はい。これが金時生姜です」
にこやかな笑顔で見せてくださったのは、鮮やかなピンク色をした生姜根。
見た目は通常の生姜に比べると少し小ぶりに感じますが、香りと辛味は大変強く栄養価も高いそうです。
チョロギ村では、この金時生姜、当帰、チョロギを健康長寿に有用な『三大薬草』として、薬膳料理の形で来訪者に提供しています。
レストランでは三大薬草と地元産の野菜を組み合わせた『季節の薬膳』が大人気。
こちらが2階にある、「おうち薬膳 忘れな」。薬膳料理が食べられるレストランとして人気です。
広々として明るい空間は、物販スペースと飲食スペースに分かれています。
頭がチョロギの形をしているマスコットキャラクターの「チョロばあ」。
手作りとは思えない完成度で、運営されている皆さんの心意気を感じます。
レストラン内は8席ほどのテーブルがあり、余裕をもって配置されていますので、周囲の景観を楽しみながら、ゆったりと寛ぐことができます。
国際薬膳食育師が考案したメニューには「五味五性」薬膳の知恵が活かされている。
運ばれてきたのは、「季節の薬膳」。
四季折々に内容が変わり、食材には地元である亀岡・神前(こうざき)産の野菜がふんだんに使われています。
今回いただいた秋御膳には、豚肉の生姜シナモン焼、黒糖と金時生姜の大学芋、紅白なます、揚げなす・しめじのゴマソース、長芋のすり流し…といった盛り沢山の内容でした。金時生姜やシナモンなど温性の食材で体を温め、しめじ・人参・シナモンなどで胃腸や腎臓の働きを助けるという「薬膳」の考え方がメニューに活かされています。
「季節の薬膳」以外のメニューとしては、金時生姜をベースに野菜を煮込んだ「薬膳カレー」、小麦アレルギーの人にも安心して食べられるグルテンフリーの「チョロギうどん」なども。
食後におすすめしたいオリジナルのチョロギジェラート。濃厚なのに後味すっきり。
代表の森隆治さんと奥様の美春さん。
美春さんは元看護師で、国際薬膳食育師。資格を生かしてレストランの献立を考案されています。
代表の森さんにチョロギ村の設立にまつわるエピソードや薬膳に対する思いなどをお聞きしました。
チョロギ村が誕生したいきさつを教えていただけますか。
もともと僕は製薬会社で研究開発をしていた人間なんですよ。「ザ・ガードコーワ整腸錠」という胃にも腸にも効く薬を開発して、業界から表彰も受けたこともある。長年勤めた会社を退職するとなったときに、定年後は高齢化の進む地元の活性化をしたいと思ったんです。
自分は薬剤師で、妻は看護師でした。せっかくなので、その知識と経験を活かしたい。医療に関わることで、住民に馴染むものは何かと考えた結果、どこにでも目にする身近な薬草が良いんじゃないかとなった。
それで薬草を栽培し、それを食生活に取り入れて「健康長寿の村」を目指す活動を始めました。
中国で「長寿」の漢方として利用されてきたチョロギを地域の活性化のシンボルにした理由とは?
そもそも何故チョロギなのですか?昔からこの地域に自生していた薬草なのでしょうか
いや、そうではなくて僕が持ち込んだんですよ。チョロギっていうのはシソ科の植物で、根の先にできる塊茎の部分を日本では縁起物として祝い事の席で食べていたんです。
いっぽう中国でチョロギは「鎮静作用」のある薬草として利用されていた。
活動をはじめて、何か健康長寿に役立つものはないかと探していたときに、チョロギのエキスが認知症の予防になる可能性があるという論文を見つけたんです。当時チョロギと認知症の関連について書かれた論文はその一つだけで。見つけたとき「これだ!」と思いましたね。
製薬会社で薬を作っていた森さんが東洋医学の漢方に着目されたのは意外な感じもしますが…
昔から東洋医学をやっている人は、西洋の副作用の出る薬なんて、もってのほかと言う。西洋医学の人は、あんな効きもしない漢方で病気なんか直るわけがないと言う。…どっちも相手の悪い所ばかりを批判している。
僕は「ええとこどり」をしようと思った(笑)。
「上工は未病を治す」という言葉があるんですよ。
上工とは名医のことで、未病とは病気が発症する前の状態のことです。つまり、名医は病気になる前に治すと言っているんです。
僕たちは健康長寿の村を目指しているから、病気を未然に防ぐ「予防」が大切。だから、漢方の薬膳の考え方にならって、病気にならない健康な身体づくりを提案しているのです。
日本最古の医学書「医心方」を記した偉人が亀岡に暮らし、薬草を栽培していた!
長年の活動を通して、地域に何か変化はうまれましたか?
意欲的な若い人の移住がありました。神前で農業をして中山間地の農村再生に携わりたい、ということでね。ありがたいことだと思っています。
チョロギ村では薬草を使った加工品の開発やレストランの運営だけでなく、地域と移住者をつなぐ活動も行っているんです。移住を希望する人に空家を紹介したり、農業したい人なら安く借りれる農地を探したり…田舎暮らしに関する様々な情報を伝える役割を担っています。
移住については、やみくもに人が増えれば良いというものではない。新しく造成された住宅団地に住んでもらうより、昔からある旧村の小さな区分の中に入って、地域に溶け込んでほしい。あたたかい人の繋がりを感じながら暮らして欲しいと願っています。
最後に、この地域の魅力についてお聞かせいただけますか。
亀岡という場所は1200年もの間、都だった京都に非常に近い所で、しかも川の上流にあたる。上流にある亀岡の物資が、川を使って都へと送られていたわけで…。古くから京の都を支えていたという意味で歴史的に重要な場所なんですよ。
歴史を振り返って、亀岡が生んだ偉人は誰かといえば、いつも円山応挙と石田梅岩の名が挙がりますよね。でも、僕としては丹波康頼(たんばのやすより)を強く推したい。一般的な知名度は低いけれども、「医心方」という日本最古の医学書を書いた人なんです。
その丹波康頼が亀岡の医王谷に暮らし、薬草を栽培していたという言い伝えがある。まさに僕らが今やっていることと一緒やな(笑)。
古くから薬草と縁がある亀岡が「東洋医学のメッカ」と呼ばれるようになってほしい。それに見合うだけの歴史と可能性が亀岡にはあると思っています。