里山ベース ハナビ 代表 鶴田 勇気 さん
亀岡の里山は移住者に優しく、楽しい。 新しいモノゴトに挑戦しやすい最高の環境です。
亀岡市西別院町でセルフビルドしたシェアハウスを運営し、衣・食・住にまつわる様ざまな地域コミュニティ活動をしている「里山ベース ハナビ」代表の鶴田勇気さん。2022年に大阪府豊能町から、現在の場所へ移住したそうです。ほかの土地で暮らした経験もある鶴田さんの視点から、亀岡の里山の魅力や今後の夢を語っていただきました。
豊能町の古民家から始まった里山ライフワーク
― 鶴田さんは亀岡のご出身ではないそうですね。
今は亀岡の里山で自然に囲まれた暮らしをしていますが、もともとは東大阪市出身で、東京や大阪市内でIT系エンジニアの仕事をしていました。ご縁に恵まれて大阪府豊能町にある築100年以上の古民家へ2018年に移り住んでから、僕の人生が変わりました。16部屋以上ある巨大な古民家を工務店の方など大勢の人たちに力を貸していただきながらDIYで修繕を行い、シェアハウス事業「里山ベース ハナビ」をスタート。SNSを活用して居住者を募ったところ東京や大阪市内から移住希望者が集まり、気づいたら8組の家族が暮らす大所帯になりました。
― すごい! 古民家をDIYで再生したんですか。
夢中でDIYしまくった結果、家を建てられるくらいのスキルが身についていました。やがて、周辺住民の方から「蜂の巣の駆除できへん?」「玄関のドアの歪みを修理してくれへん?」と相談を持ちかけられるように。家の困りごとを何でも引き受ける便利屋みたいな存在ですね。相談事がどんどんレベルアップしていくのも面白くてね。ITスキルを活かした仕事は自宅でもどこでも可能。里山ライフを楽しみながら自分らしく心地よく暮らす方法が、いくらでもあるのだと気づくことができた。豊能町での経験が、お金に対する価値観や生き方を改めて考える良い転機になりました。

豊能町で暮らしていた頃の鶴田さん。里山で自給的に暮らすための様ざまな技術と知恵を大勢の人の力を借りて習得したそう。
大切な家族が増えたことを機に亀岡へ移住
― その経験を活かし、亀岡の里山に移住を?
様ざまな経緯があったのですが、大きな出来事の一つは僕自身の結婚です。豊能町のシェアハウス暮らしを通じて出会った妻と結婚し、子どもが生まれることを機に家族の新しい生活拠点を求めて2022年に亀岡へ移住しました。
― 現在の西別院町に移住を決めた理由は?
西別院町は豊能町から車で20分の場所にあり、亀岡の中でも限りなく大阪に近い里山です。京都市内よりも大阪市内へ出る方が近く、利便性がいい。さらに、西別院町は亀岡市の移住促進特別区域になっていて、移住者が空き家を改修して住むための支援制度があることも決め手になりました。豊能町でカフェを営んでいる知り合いの実家が西別院町にあり、空き家がすぐに見つかったこともラッキーでしたね。
― 豊能町で培ったDIYスキルが活かせますね。
亀岡へ移住したタイミングで息子が生まれ、家族が増えた喜びにも背中を押され、フルパワーで頑張ることができました(笑)。同じ敷地に母屋と離れの2棟がある空き家を買い取り、母屋を家族の新居として、離れはシェアハウスとして僕の手でリフォームしました。「里山ベース ハナビ」セカンドステージの幕開けです。ありがたいことにシェアハウスには、若い女の子からご家族まで、様ざまな住民の方が住んでくれて、楽しく賑やかに暮らしています。

鶴田さん渾身のDIYスキルと想いが詰まった西別院町の「里山ベース ハナビ」。屋根には太陽熱温水器も備えています。

シェアハウスのリビングは、木のぬくもりあふれる心地いい空間。
里山は人と人の距離が近く子育てがしやすい
― 西別院町の魅力を、どのように感じていますか?
僕たちが暮らす集落は西別院町の中でも規模が小さく、世帯数も少なめ。新しく移住してきたファミリーを、町全体でウエルカムと包み込んでくれる空気感があります。引っ越し間もない子どもが生まれたばかりの頃、妻とベビーカーを押しながら集落を一周したら、次から次へと集落の方たちが声をかけて下さって、気づいたら僕の両手は抱えきれないほどの野菜でパンパンになっていました(笑)。こんなに優しくて愉快な里山は、なかなかないですよ。
― 地域の皆さんが気にかけてくれるのですね。
今年3歳になった息子が近くの公園で遊んで家に帰ると、両手いっぱいにミカンを抱えていることもしょっちゅう(笑)。集落全員が顔見知りみたいな感覚で、誰の子どもだろうと自分たちの本当の子どもや孫のように接してくれるんです。本当の意味での人間らしい営みが里山には残っていることを強く感じています。

鶴田さんと妻の加奈(かな)さん、愛息の陽人(ひなと)くん。陽人くんは、里山の自然の中でたくましく成長中!
― 移住者が里山暮らしになじむコツって、何でしょう?
「田舎はよそ者に排他的」という懸念を抱いている人がいるとしたら、それは間違った認識だと声を大にして言いたいですね。密度の濃いコミュニケーションが必要になることもありますが、それは都会暮らしをしていても、会社勤めをしていても、同じことですよね。トラブルを招く原因は単なるコミュニケーション不足。出会ったら挨拶をする、話しをする時は相手の顔を見る、困っている人がいればお手伝いする。人として当たり前のことをしていれば、たいていのトラブルは回避できるし、なじんでいけるものだと僕は思いますね。

地域住民の方やシェアハウスの仲間たちとの餅つき行事。都会では少なくなった季節の営みが里山には息づいています。
衣・食・住の自給的生活を目指して活動中
― 現在の「里山ベース ハナビ」の活動について教えてください。
「ワクワクから始まるナリワイ(生業)づくり」をテーマに、衣・食・住に軸足を置いた活動をしています。まず、「住」の活動としては、シェアハウス事業と地域の空き家の再生に力を入れています。放置したままでは人が住めなくなってしまう近隣の空き家を買い取って修繕し、移住希望者を呼び込むという流れを作っていきたいですね。僕たちのような子育て中の移住者さんが増えてくれたら、息子の遊び友達も増え、地域の保育園や小学校の存続につながります。そうやって人が集まることで、地域が元気になっていけば幸せですね。

近隣の空き家再生を手がける鶴田さんと有志の仲間たち。「お宝探し」と題して片付けイベントを行うなどワクワク感を高める工夫をしています。
― 「食」と「衣」の活動についても聞きたいです!
「食」の活動として、2023年から無農薬自然栽培にこだわった米作りを始め、2025年からは作付面積もパワーアップします。また、養鶏や養蜂、狩猟を行い、味噌・醤油・みりん・柿酢などの調味料も手作りするようになりました。どれも1個人や1家族で取り組むと大変ですが、地域の皆さんと一緒に暮らしの延長で取り組むと楽しいんですよ。「衣」は妻が草木染めをして布を織ることを学び始め、外部講師の方のお力添えもいただきながら農作業着として親しまれている“たつけ”などを作るワークショップを開催したりしています。

2024年に4反からスタートした無農薬自然栽培の米作り。2025年には拡大予定とのこと。

手植えの様子。SNSで助っ人を募集し、様ざまな人々との里山交流を楽しんでいるそう。

醤油作りのワンシーン。専用の搾り機も手作りとのこと!
― 里山暮らしって、楽しそうですね。
自分たちの手の届く範囲で、暮らしの延長線上としてナリワイを作り、稼いだお金を暮らしが豊かに楽しくなるように再投資をする。そういう循環ができることも豊かな自然と資源に恵まれた里山だから。里山は新しいチャレンジをする人間をおおらかに包み込んでくれる懐の深さがある、ものすごくエキサイティングな場所です。里山をアップデートしながら、僕自身の可能性にも挑戦し続けたいですね。

鶴田さんの生き方に共感して、「里山ベース ハナビ」には大勢の仲間が集まり、様ざまな協働活動を楽しんでいます。
●鶴田さんのナリワイづくり活動の最新情報は、里山ベースハナビの公式SNS(Instagram、Facebook)と「亀岡空き家再生プロジェクト」にて発信中!
= 編集後記 =
西別院町の「里山ベース ハナビ」を初めて訪問したのは、夏真っ盛りの夕暮れ。お庭に平飼いの鶏が元気よく走り回り、心地よい風が吹いてきて、地縁がないのに“里帰り”のような感覚を覚えました。奥さま手作りのおからドーナッツも本当に美味しかったです! 現在、シェアハウスは残念ながら満室とのことですが、通いながら一緒に米作りをしたり、空き家再生をしたり、ワークショップ体験したりする仲間を随時募集中とのこと。興味のある方は、お問い合わせください。

鶴田 勇気さんの歩み(主な経歴)
ITエンジニアを経て、ファイナンシャルコンサルティング事業で独立。2018年に豊能町の古民家に移り住み、シェアハウス事業をスタート。2022年に亀岡市西別院町へ移住する。現在、シェアハウス事業や空き家再生事業など幅広い地域活性活動を行っている。『里山ベース ハナビ』代表、『合同会社エンカレッジライフ』代表社員、『亀岡空き家再生プロジェクト』代表、『かめおか里山ネットワーク』メンバー。