のどかな自然や民話など、魅力が詰まった保津町。 地元住民×移住者みんなで地域を盛り上げたい。

保津・むらカフェプロジェクト 代表 中野恵二 さん

のどかな自然や民話など、魅力が詰まった保津町。 地元住民×移住者みんなで地域を盛り上げたい。

JR亀岡駅から車で約5分。保津川の北側に広がる保津町で、精米・製粉業を営みながら地域創生の活動に携わっている中野恵二さん。『保津・むらカフェプロジェクト』の代表として、さまざまな地域おこしのプロジェクトを手掛けています。中野さんが現在、力を入れている活動や保津町の魅力について、お話しを伺ってみました。

保津町を「通り過ぎる町」にしたくない!という想いが出発点

― 保津町ってJR亀岡駅から意外に近いですね。

山と川、畑や田んぼに囲まれた里山でありながら、特急列車が停まるJR亀岡駅が最寄駅。小さな町やのに保育園も小学校も大きな祭りも揃っていて、ほどよい田舎感が保津町のええところです。亀岡駅方面から保津川に架かる道(亀岡園部線)を渡ると保津町の入り口で、川を境に空気が変わります。川の向こう側(駅側)は晴れているのに、こちら側(保津町側)は雨が降っていたり、霧が濃くなったり。異次元に迷い込んだような不思議な空気に包まれる瞬間があるところも魅力かな。

保津町の夜の景色。手前の保津町とネオン輝く亀岡市街の間に保津川が流れていて、線を引いたように空気感が違います。

 

― 保津といえば「保津川下り」のイメージがあります。

実は、保津峡の川下りが楽しめるのは川向こう(亀岡駅側)。観光客のほとんどが川下りを楽しむ目的で保津町を目の前に通り過ぎ、保津峡から嵐山方面へ流れてしまいます。保津町まで足を伸ばし、散策や滞在を楽しんでもらいたい!という想いが私の地域おこし活動の原点なんです。

― 具体的に、どんな活動をされてきたのですか?

保津町に点在する空き家の再生や移住促進のお手伝いをはじめ、昔から伝わる妖怪の民話を楽しく伝える活動、特産を生かした商品づくりなど、地元の人や保津町に新しく移住してくれた人たちにも力をお借りしながら、さまさまなプロジェクトを立ち上げてきました。いずれも、ゆる〜く活動しています(笑)。

地元で愛されてきた酒店を改装し、空き家再生と移住相談の拠点に

― 空き家の再生や移住促進の活動について、詳しく聞かせてください。

きっかけは、保津町の『NPO法人ふるさと保津』が始めた貸し農園的農業塾に10年ほど前から携わるなかで、亀岡市外の参加者から“住んでみたい”と移住相談を度々受けるようになったことです。すぐに住める状態の空き家が見つからないなどの残念な経験を何度か経て、たまたま私の親戚の家が引っ越しで空き家になったので、移住希望者につないだところ、とても喜んでもらえました。高齢化が進むなか、誰も動かなければ空き家が増えて放置されたままになるかも知れない。そんな思いから、本腰を入れて活動しようと考えるようになりました。

『保津・むらカフェプロジェクト』の拠点であり、空き家再生のリアルモデルでもある『保津川屋酒店』

― それが『保津・むらカフェプロジェクト』の始まりですか?

そうですね。地元で酒店として長年親しまれてきた『保津川屋酒店』が高齢化で店じまいし、保津町を愛する知人が購入。その方から空き店舗の活用の相談を受けたことがご縁となり、住居部分は空き家バンクに登録して賃貸に、店舗部分と倉庫の1・2階を地域の魅力発信や交流の場として再生することに。その活動の始まりとともに2020年に『保津・むらカフェプロジェクト』が産声を上げました。全国古民家再生協会や京都府内の大学生の力を借りて約半年がかりでDIYリフォームが完了。現在は、移住相談会『くらしる相談所』を月1回開催するなどして、地域の“たまり場”を目指しています。

生まれ変わった『保津川屋酒店』1階のフリースペース。

保津町に伝わる民話から生まれた地域のシンボルキャラクター

― 保津町に伝わる妖怪の民話にも興味があります!

かつて保津町が “保津村”と呼ばれていたころから伝わる狸(たぬき)の妖怪で、“竹きり狸”と呼ばれています。保津町の竹林の中に棲み、夜中に竹を切る音を立てて竹林を通りかかった人間を化かすイタズラ好きの妖怪です。私は幼いころに祖父から伝え聞いていたのですが、地元の住民でも知らない人がいることに驚き、残念に感じていました。

今も『竹きり狸』が潜んでいるかも知れない、保津町の竹林。

― その想いが新しい地域おこし活動のヒントに?

数年前に『ぽんぽこプロジェクト』と銘打ち、竹きり狸をキャラクター化。“ふる里に吉あれ”の願いを込めて “里吉(さときち)くん”と命名しました。移住者で絵が上手な方の力を借りて紙芝居も作り、地元の子どもたちに読み聞かせをしたり、竹林の保全を考える活動などをしています。また、“ぽんぽこ”の音にあやかり私の本業である精米・製粉のかたわら“ポン”菓子も製造販売。保津町に興味を持ってもらうきっかけになればと願いながら、移住相談会や地域の出張イベントなどでお茶請けにお出ししたり、販売したりしています。結構、評判いいんですよ。

地域おこしプロジェクトから誕生した、竹切り切り狸の『里吉くん』。亀岡の里山イベントなどで出没中!

『竹きり狸』の紙芝居。語り部で絵も手がけた荒木千典さんは、移住者の一人。

白米と玄米のポン菓子+保津産のユズ(柚子)アイスなどが味わえる、中野さん考案の『ほんぽこパフェ』。

地元住民×移住者の化学反応で、保津町を盛り上げたい

― 今後の地域おこしの構想を教えてください。

保津町らしい特産品を近い将来、形にしたいですね。現在、地元の保津町にある京都ほづ藍工房や私の母校でもある京都先端科学大学の研究室とのコラボで、京藍のハーブティーや化粧品の商品化を構想中です。今でこそ徳島や沖縄の藍が有名ですが、昔は日本各地に藍の染め屋があり、京藍は淡く鮮やかな水色が特徴で新撰組の法被(はっぴ)の色が、まさに“京浅葱(きょうあさぎ)”と言われている京藍です。流通の発達で途絶えたり廃れてしまった地域の魅力に再びスポットをあてることで、改めて足元の大切さに気づくきっかけになれば嬉しいです。

― 人の輪が広がって、なんだか楽しそうです!

私だけの力ではないんです。10年ほど前までは取り立てて何もなかった保津町に、東京や京阪神から移住してきてくれた人が農家民宿やカフェ、工房を始めたり、プロダクトデザインや建築デザインの拠点にしてくれて、地域の祭りやイベントで集まるたびに新しいアイデアのヒントが生まれている感覚です。みんなと仲良くしながら一緒に盛り上げていけたらええなぁ、と私もワクワクしています。ぜひ、川向こうの保津町まで足を伸ばして、ほっと心が和む景色・空気・人に触れて欲しいですね。

保津・むらカフェプロジェクト

亀岡出身で4年前に保津町に移住した一級建築士の松井さん(左)と奥様(右)。事務所1階をフリースペース『保津浜テラス』として開放し、中野さんと共に地域おこし活動をしている。


= 編集後記 =

保津町の竹林に今もいるかも知れない “竹きり狸”のご利益もあってか、地域おこしのアイデアがポンポコと湧き出ている印象の中野さん。「あれこれ手を広げすぎやと思いつつも、どこからご縁が生まれるか分からないから、やめられないんです」と苦笑い。保津町を訪れるたび、楽しい何かが生まれている可能性大です!

のどかな自然や民話など、魅力が詰まった保津町。 地元住民×移住者みんなで地域を盛り上げたい。

中野恵二さんの歩み(主な経歴)

大学生のころに亀岡市の地域おこしを手伝い、その楽しさに目覚める。曽祖父の代から続く家業の精米・製粉業を継いでからは、保津町自治会の下部組織である『保津町まちづくビジョン推進会議』や『NPO法人ふるさと保津』の活動に加わり、地域の課題可決に向けた支援や研究、まちづくり事業を手伝うように。2020年、『保津・むらカフェプロジェクト』設立。『一般社団法人全国空き家アドバイザー協議会京都府亀岡支部』支部長、『かめおか里山ネットワーク』メンバー。