かまどや、ピザ窯を作るワークショップで、唯一無二の表現が出来る左官の楽しさを広めています。

井上工務店2代目 井上 勝晶 さん

かまどや、ピザ窯を作るワークショップで、唯一無二の表現が出来る左官の楽しさを広めています。

農的暮らしに憧れの野外炊事といえば、地元のお米をかまどで炊いたご飯や、畑で穫れた野菜をのせて窯で焼いたピザ。 左官業一筋に生きてきた井上勝晶さんは、そんな憧れを叶えるお手伝いをしてくれます。 機械化された現代の中で、人から学ぶ温かさ、そして手と原始的な道具で、実用的なものが完成していく喜び。 ものづくりやリノベーションのワークショップを初心者向けに開催する意義や、ものに対する価値観をお伺いしました。 

生まれ育った亀岡で、一途に左官業を続けている

ー左官屋ってどんなことをする仕事?

父が一代で築いた左官屋。家業を継ぐつもりで高校卒業後、京都市内の左官屋で修行を積みました。あえて別の場所で修行を積むのは、親元で仕事をすると、甘えが出てしまうから。5年後、一人前になった状態で家業の職人の一員になりました。

現在は「井上工務店」という名前ですが、もともとは「左官屋井上」でした。建物の建築工法が変わってきたので、「左官」という言葉に馴染みない方や、どんな職人なのか知らない方も増えてきたように感じます。

コテを使って、建物の壁・床・天井・塀などに漆喰やセメントを均一に塗ること。タイル貼り、レンガ積み・ブロック積み・土間打ちなども左官業の仕事です。最近では亀岡市立育親学園、全国都市緑化フェアin京都丹波で使われるベンチや観客席、京都市のチームラボ別館、宮津市の資料館、南丹市の給食センターなど、地域内外の左官仕事を請け負っています。職人は全員で8名、それぞれの現場に向かいます。

作業場の塀は、もちろん自分たちで作ったもの。レンガ作りのように見えて、レンガ調のタイルを貼っています。

左官を活かして、調理する道具を作り始めた

ー壁や床、天井に向かうことから、道具を作り始めたきっかけ

きっかけは左官業に対する社会の認知度や、新規就労者の低さに危機感を抱いたことでした。日本全体で見て、左官職人は高齢化、若手職人は減少しています。まずは左官仕事を知ってもらうこと、触れてもらうことだと思い、普段の仕事よりもっと身近な左官技術に興味を持ちました。京都左官共同組合の青年部に加入し、同年代と啓発活動や勉強会を企画しました。

ー初めて作ったものは、つるつるに光る泥団子だった

京都の土壁に「磨き壁」というものがあります。聚楽土などの土壁を、漆喰や顔料で仕上げ、コテで磨き上げて光沢を出すように仕上げる京伝統技術で、泥団子を磨く要領と同じなのです。泥団子なら誰でも馴染みがあり、作ることも出来る画期的なアイテムだと思いました。しかし、子供は公園の砂場で作るのとは格段に違う泥団子を見て喜ぶものの、大人たちはこれはどう使ったら、、?とたいてい疑問を持ちました。作る工程に楽しさがあっても、持ち帰って、飾ることに限られてしまうのです。

ーミニかまどの課題

それから、卓上の漆喰かまどを作っている職人さんを知り、名古屋や神戸に学びに行きました。自作のミニかまどをネットに投稿していたところ、金額も書いていなければ販売しますとも記載していなかったにも関わらず、問い合わせがあり、製作販売の希望が数件ありました。実は、かまどの作り方は光る泥団子と構造的に同じなんです。飾るものから実用的なものに変更して道具を作ることで需要が増えるんだと感じました。

ある時は、タレントのおすぎとピーコが出演する番組で「オカマでおかまご飯」といった内容から、かまどがほしいと検索したところ自身の投稿を見つけてもらい、製作させてもらったこともあります。九州のテレビ番組を見られた方がネットで検索したところ自身の投稿を見つけ、製作依頼をいただいたので、萩市まで送ったこともあります。

個人の依頼があれば製作することが続いていたところ、知り合いがお店で販売することを勧めてくれ、置かせてもらうことになりました。しかしながら材料代や職人が作る手間賃、土台は建具屋さんに作ってもらう特注、お店の販売手数料が追加されるとなると、高額になってしまうので、結局販売には至りませんでした。

 

ーピザ窯製作指導の依頼

亀岡市の宮前町の「薪窯ピザ庵 えん」の人見さんが、お店を開業する際、建物が和風なので、ピザ窯もイタリアン調ではなく、和な雰囲気のものを作りたいと考えていたところ、ミニかまどをモデルに、作り方を教えてほしいと、僕に声をかけてくれました。自作をしたことはありましたが、人見さんの依頼が自身にとって、初めてのピザ窯製作指導となります。製作記録の様子

 

広がるご縁とワークショップの始まり

ー作業場の移転と鹿谷ワンダービレッジの関わり

作業場は、もともと北古世町にありましたが、河川改修のため立ち退き依頼があり、今の薭田野町に移転しました。作業場の隣には、四季に合わせて野菜やお米を作り、自然の中で暮らしを手づくりしていく鹿谷ワンダービレッジがあります。運営管理者の福本さんからもピザ窯制作の相談を受け、再び制作指導をすることになりました。

1日目のピザ窯作りの作業日、参加者さんは昼食のお弁当をあちらこちらで食べていました。せっかくだから次の作業日は一緒にお昼ご飯を食べたいなと思い提案。3合炊きのミニかまどを3つ並べて炊き立てのごはんを振る舞ったところ、参加者さんがミニかまどを大変気に入りほしいと言ってくれました。ただ、以前の経験より、自作したものを販売となると、価格がネックになるだろうな思い、ワークショップ形式を提案し、価格を抑えました。

3合炊きのミニかまどなら4日間で作れます。自分で作れる喜びや、ミニかまどで炊くごはんの美味しさから、参加者さんの満足度の高い口コミは広まり、次から次へと製作希望者がやってきます。こちらが日程を決めて掲示するのではなく、参加者さんの都合にあわせて土日開催しているので、続けやすさがあったり、次はミニピザ窯、七輪、二次燃焼コンロ、など作りたいものは増えてゆき、初回の開催から現在までワークショップの開催は絶えずに続いています。

ーワークショップを開催する意味

左官技術は何年も修行をして、習熟して、やっと初めて出来る作業も多いです。そのため参加者さんが「やってみたい」と「出来る」は一致しないこともあります。作るものは飾るものではなく、道具として実用性も兼ねているので、不具合がないよう完成させるため、もちろんサポートに入りますし、ほぼ自作に近い時も正直あります。全部ひとりでやならいといけないことはないんです、上手く出来なくても、伝わったらいいなと思うことは、左官の技術を身近に見て、触れて、知って、乾かす時間も必要で、すぐには簡単に作れないということ。どんな参加度であれ、この体験があることで、ものの値段には「作る作業」があることを実感してもらえたらと思っています。

ー個性溢れる作品

基本の作り方はあるものの、自分たちで作る分、装飾部分の自由度は高いです。好きな色に仕上げるには、絵の具や顔料を漆喰に混ぜる、ステンシルで絵を描いたり、タイルを貼り付けたり、個性豊かな作品が生まれます。リクエストの中には、漆喰が乾いた後にビー玉を貼りたい、蛍光グリーンを塗りたい、家の壁の色に合わたいというのもあり、左官屋からすればつるっとしたもの同士を貼るのは予想外でしたし、漆喰の特性上、完成の色が白くなりやすいですし、塗装屋でもないので色の調合も難しかったですが、なにか方法があるだろうと、思いつく限りあの手この手を使います。出来ないというのは簡単ですが、どうにかして叶えた先に、みんなの笑顔があって、その笑顔のために動いているときが、僕も楽しいんだと思います。

 

ーワークショップ日のもうひとつの楽しみ

参加者さんが、初めて触れる左官仕事にわくわくして、笑顔が見られるのはわたしの喜びです。そして、なんといっても炊き立てのかまどご飯と、参加者さんの持ち寄りおかずで、みんなで同じものを食べる昼食は楽しみの時間です。参加者さんが多いほど、いろんな味を知れるし、食べきれない量になることもしばしば。ある日の昼食は、神前米の炊き立てごはん、じゃがいものガレット、尾道ラーメン、フライドポテト、だし巻き卵、わさび菜のキムチ、ジャーマンポテト、大学芋。
台所でなくても作業場にいながら、火を起こして揚げ物をしたり、お湯を沸かしたりして作る、出来立ての料理は格段に美味しいです。また、会話の中で、そば茶とご飯があるから茶粥にしてみる?とアイディアが出たり、無性に大学芋にアイスを添えたくなってコンビニに走ったり、思いのままに、自由にみんなと作り上げる時間が楽しくて仕方ありません。

いつしか趣味はものづくりに

ーものづくりのきっかけと創作意欲

子供が大きくなるに連れ、家族でのお出かけが減り、週末には一人の時間が出来るようになりました。しかし、お小遣いも少なく、時間があっても趣味というものは見つかりませんでした。建築現場では大量の端材やまだ使えそうなものが捨てられていて、そういった使わなくなったものでも、木材であれば薪ストーブの燃料、ピザ窯作りの木材部分に使えますし、包丁のケースも作りました。放棄竹林の整備をしては、無数にメリットのある竹炭を作ることに成功しました。竹炭に合わせて七輪を作ったり、作業場で出る大きな空き缶からはバームクーヘン焼き機、不要とされていた大きなタイルからは、おくどさん型のかまどを作りました。いつしか、目の前に転がっている “処分されるもの” に新たな息吹を吹き込むものづくりが趣味になっていました。自分の手とアイディアで生み出す楽しさを知ってからは、電気やガスをなるべく使わずに、買わずにあるもので、新たな道具を作ることに “面白さ” を感じるようになりました。

ーこれから作りたいもの

鍛造や鋳造、陶芸、木工の技術で日常遣いが出来るものを作ってみたいし、鉄板がたくさん処分されている現場があったので、ガスを使わずして薪でお好み焼きを作ってみたい。鹿谷ワンダービレッジにツリーハウスも、、子供があれで遊びたい、これで遊びたい、そんな感覚のように作りたいものは次々と思いつきます。その中で左官技術も取り入れて、魅力を伝えていきたいです。

かめおか里山ネットワークとの繋がり

ー田舎暮らし体験住宅「桑山邸」でのワークショップ

代表の西田さんとの出会いは、鹿谷ワンダービレッジでした。その後、作業場で開催したミニかまどのワークショップに参加してくれ、田舎暮らし体験住宅「桑山邸」の改修作業についての相談がありました。漆喰の壁塗り体験と、ピザ窯作りを開催し、様々な方に参加していただきました。

ここの畑はご近所の方が管理されています。畑から新鮮な野菜を収穫し、ピザにのせたり、鍋に入れて、あつあつの美味しい食事が出来上がりますし、自然の恵が直に味わえる体験が出来ます。

かまどや、ピザ窯を作るワークショップで、唯一無二の表現が出来る左官の楽しさを広めています。

井上 勝晶さんの歩み(主な経歴)

京都府亀岡市生まれ。京都市内にて左官の修行を5年間積み、その後、父が一代で築いた左官屋のもと、35年間一筋に歩み続けている。